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広島地方裁判所 昭和34年(タ)21号 判決 1965年12月10日

原告 林節

被告 土井昇 外一名

主文

昭和三四年五月二七日広島市長あて届出にかかる原告と被告土井昇との協議離婚は無効であることを確認する。

被告両名が昭和三四年一一月二八日広島市長に対する届出によりなした婚姻はこれを取消す。

訴訟費用はこれを三分し、その二を被告土井昇の負担とし、その余を被告両名の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨及び訴訟費用は主文第一項の分に対しては被告土井昇の負担とし、主文第二項の分に対しては被告等の連帯負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は被告土井昇と婚姻し、昭和三一年一一月八日広島市長宛に婚姻の届出をした。

そして、原告と被告土井昇は家庭の都合で別居生活を続けていたが、同被告は昭和三三年一二月末頃から原告の許に帰宅しなくなつたので不思議に思つていると同被告は被告土井(旧姓光森)宮子と関係が生じ、昭和三四年五月二七日付で広島市長に対し原告と協議離婚をする旨の届出をしていた。

しかし、右協議離婚の届出は、被告土井昇が、原告の知らない間に勝手に原告の署名押印を偽造してなしたものであつて、原告は被告土井昇と離婚する意思は全くないから当然無効である。

二、よつて、原告は昭和三四年一一月広島家庭裁判所に離婚無効の家事調停(同庁昭和三四年家(イ)第五九七号)を申立たが、右調停は同年一二月九日不成立となつた。

ところが、被告土井昇と同土井宮子は、右調停事件係属中の同年一一月二八日広島市長宛に被告両名の婚姻の届出をした。

しかし、被告土井昇と原告の協議離婚は当然無効であるから、被告両名の右婚姻は民法第七三二条に違反する重婚であるのでその取消を求める。

三、よつて、原告は、被告土井昇との右協議離婚が無効であることの確認を求めるとともに、被告両名の右婚姻の取消を求めるため本訴に及んだものである。

と述べた。

立証<省略>

被告等訴訟代理人は、まず本案前の主張として「本件訴はいずれも却下する」との判決を求め、その理由として、

原告の本訴請求はいずれも人事訴訟法第七条に違反しているから却下さるべきものである。即ち被告両名に対する重婚取消請求事件と、被告土井昇に対する協議離婚無効確認請求事件とは人事訴訟法上、併合したり或いは分離することは許されないものである。訴訟の分離は本来併合さるべき訴訟が併合されている場合にのみ事情によつてこれを分離することが許されるのみであつて、本訴訟請求の如く、元来法律上併合することが許されない重婚取消請求と協議離婚無効確認請求の併合事件の場合にまでこれを職権で分離、併合するという脱法的便法は違法であるから、本訴はいずれも却下さるべきものである。

と述べ、

本案につき、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

原告主張の事実のうち、原告と被告土井昇との婚姻届が昭和三一年一一月八日広島市長宛に届出されていること、原告と同被告との協議離婚届が昭和三四年五月二七日広島市長宛に届出されていること、同被告と被告土井宮子との婚姻届が昭和三四年一一月二八日広島市長宛に届出されていること、原告が広島家庭裁判所に協議離婚無効の家事調停の申立をしたが、該調停事件は不成立になつたことは認めるが、その余の事実はすべて否認する。

即ち、原告は被告土井昇には無断で同被告の署名押印を偽造して、昭和三一年一一月八日広島市長宛に同被告との婚姻の届出をしたことが同被告にわかつたので、原告と同被告との間で紛争が生じ、結局、原告は同被告に対し協議離婚届出の事務一切を委任したので、同被告は昭和三四年五月二七日広島市長宛に原告との協議離婚の届出をしたものである。

と述べた。

立証<省略>

理由

(被告の本案前の主張について)

被告は、原告の被告昇に対する協議離婚無効確認請求と、被告両名に対する重婚取消請求とは人事訴訟法第七条の規定によりこれを併合して訴の提起することは許されないものであるが、原告の本訴請求はこれを併合して提起したものであるから、本訴請求はいずれも訴を却下すべきものである。かかる場合、裁判所がこれを分離し更に併合することは許されないものであると主張するので判断する。

協議離婚無効確認請求と重婚取消請求とは、訴訟物たる婚姻も同一でなく、且つ、相手方も同一でないので人事訴訟法第七条の趣旨より併合は禁止せられていると解する見解もあるが、当裁判所は右見解を採用しない。(仮に、右見解に立ち、併合訴訟が許されないとしても、これをもつて直ちに訴の却下の事由とはならず、かかる場合職権で弁論を分離すれば足りること大審院昭和一〇年四月三〇日判決、民集一四巻一一七五頁の判示するとおりである。)

即ち、本件において、原告が被告両名の婚姻の取消を主張する理由は、原告と被告昇間の協議離婚が無効であつて被告両名間の婚姻は重婚に該当するというのであるから、右婚姻が重婚になるか否かを判断するについては離婚の有効、無効はその直接の前提問題として判断せらるべきものである。このように後者は前者の直接の先決的関係に立つとともに、前者は後者の当然の結論である如き関係にあるのである。

しかも、元来、人事訴訟法第七条第二項本文が併合を禁止した理由は、異種の訴訟手続に属する訴を併合審理することによる不便を避けると同時に重要な身分関係に関する訴訟審判の周到迅速を期する趣旨によるものであるから、本訴二個の請求の併合について、その手続の種類からいつても、また両請求の間に存する前記の如き関係からみても、右併合禁止の精神に牴触しないものと解するのが相当である。(朝高院昭和一三年二月一八日民判、判例体系人事訴訟手続法三四四頁参照)

そうすると、本訴各請求が併合または分離せられても、これをもつて訴却下の事由と解することはできないから、被告の本案前の主張は採用しない。

(原告と被告間の協議離婚無効確認請求について)

一、いずれも公文書であつて真正に成立したものと認める甲第一二、一三号証(戸籍謄本)、証人林ナヨの証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)を綜合すると、原告は被告昇と婚姻し昭和三一年一一月八日付で広島市長宛にその婚姻の届出をなしたこと、そして原告と被告昇間の協議離婚の届出が昭和三四年五月二七日付で広島市長宛になされ、その旨戸籍に記載されていることが認められる。被告本人土井昇の尋問結果のうち、右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして信用し難く、他に右認定を覆えするに足る証拠はない。(なお、被告本人土井昇の尋問結果によりいずれも真正に成立したと認められる乙第九、一〇号証によれば、前記婚姻の届出当時被告昇は原告と婚姻する意思はなかつたように窺われないこともないが、いずれも成立に争いがない甲第三、四号証、甲第八号証、証人林ナヨの証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)並びに弁論の全趣旨を綜合すると、右婚姻の届出当時、被告昇は原告との婚姻を考えながらも、他面被告(旧姓光森)宮子との婚姻も考え、いずれにするか悩んでいたが、結局これまでの原告の実家に対する恩義、実子和士に対する愛情等から原告の婚姻を承諾するにいたつたことが認められるので、前記乙号証の存在は前記認定をなす妨げとならない)

二、ところで、原告は、右協議離婚の届出は被告昇が原告不知の間に、原告の署名押印を偽造して届出たもので原告には離婚の意思はないから無効であると主張するので判断する。

前掲甲第一二、一三号証、いずれも成立に争いがない乙第一、二号証、乙第一三号証(離婚届書)の存在、証人林ナヨの証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)並びに弁論の全趣旨を綜合すると、原告と被告昇は昭和三一年一一月八日付の広島市長宛の婚姻届をなしてからのちも、従来と同様に双方話し合いの上、子供の通学の利便等から、被告昇は広島県佐伯郡湯来町に間借して湯来小学校に勤務し、原告は長男昭士(先妻の子)、二男和士(実子)とともに同郡五日市町の実家に居住して別居生活をしていたこと、昭和三二年一二月末頃までの間は、被告昇は日曜日とか、或いは広島市等に出張してきたときは原告方に宿泊し、一応円満な生活を送つていたこと、ところが昭和三二年一二月末頃、被告昇が湯来町の間借先に被告(旧姓光森)宮子の荷物をいれていたことを原告が知つて原告と被告昇間で喧嘩となり、その後は被告昇は原告方を訪れなくなり長男昭士も原告方に同居しなくなつたこと、そこで昭和三三年四月初頃、原告は被告昇の勤務していた湯来町に赴き、被告昇と話し合つたが、その後同年四月一二日頃、原告は被告昇宛に、同被告を問責し、激情的に場合によつては被告宮子と会つたうえ原告は身を引いてもよい趣旨の手紙を出したこと、しかしその後、被告昇と原告は離婚するかどうかにつき具体的に話し合うこともなければ、その文通もないまま約一年六ケ月経過したこと、ところが、昭和三四年一〇月下旬頃、原告の叔父が死亡したので次男和士が被告方にその旨の連絡に行つたところ、同被告方に被告宮子が同居していることを知り、原告は直ちに広島市役所で調査すると、原告と被告昇との協議離婚届が既に昭和三四年五月二七日広島市長宛に届出されていたことが判明したこと、しかし原告と被告昇とは昭和三三年四月中旬以降離婚等に関して全く協議されておらず、右協議離婚届は被告昇が昭和三四年五月原告に離婚の意思が存しないにも拘らず原告不知の間に離婚届の用紙に届出人として原告の氏名を冒書し、その名下に印鑑を押捺し、証人として訴外今本逸太郎、同島田マツヨに依頼して同人らの押印を得た上、その他所定事項を勝手に書き込んで離婚届を偽造し、これを昭和三四年五月二七日広島市長宛に提出し、同日受付られたものであることを認めることができる。被告本人土井昇の尋問結果のうち右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして信用し難く、他に右認定を覆えするに足る証拠はない。

(なお、被告昇は、原告は被告昇に無断で同被告の署名押捺を偽造して昭和三一年一一月八日付婚姻届をなしたので、右事情を知つた被告は原告と交渉の末、結局、原告は被告昇に対し協議離婚の届出をすることを承諾し、その書類の作成届出をまかせたので、被告昇はこれにより右離婚届を提出したものであると主張し、被告本人土井昇は右主張に副う趣旨の供述をしているが、該供述は前掲各証拠に照らして信用し難く、他に本件全証拠によるも、被告昇が前記離婚届の届出をした際、原告に離婚の意思が存し、その承諾を得ていたことを肯認することができないので被告の前記主張は採用しない。)

三、ところで、およそ離婚に際しては、届出書作成(署名押捺)届出行為、そして戸籍管掌者による受理の間、当事者双方に離婚意思の存在することが必要でこれを欠くときは離婚は無効たるべきものであるが、本件においては、前記認定の事実から、昭和三四年五月二七日前記離婚届が届出された当時には、原告には離婚意思がなく原告不知の間に被告昇が右届出用紙に擅に原告の氏名が冒書して偽造したものであること明らかであるから、原告と被告昇との右協議離婚は無効なものというほかはない。

四、そうすると、右協議離婚の無効確認を求める原告の本訴請求は理由がある。

(被告両名に対する重婚取消請求について)

一、前掲甲第一三号証、被告本人土井昇、同土井宮子の各尋問結果を綜合すると、被告昇と被告宮子は昭和三四年五月三一日結婚し、原告から被告昇に対する協議離婚無効確認調停申立事件が家庭裁判所に係属中であつた同年一一月二八日、広島市長に対して被告両名の婚姻の届出がなされ、その旨戸籍に記載されていることが認められる。

ところで、原告は被告昇と婚姻して昭和三一年一一月八日広島市長宛に婚姻の届出をしその旨戸籍に記載されたこと、その後、広島市長に対し昭和三四年五月二七日付で原告と被告昇の協議離婚の届出がなされたが、右は原告の不知の間になされたもので無効のものであること前説示のとおりである。

二、そうすると、被告両名の婚姻は、被告昇が原告と婚姻中、配偶者のある身分であるにも拘らず重ねて被告宮子との間になされたものであつて、民法第七四四条、第七三二条により取消さるべきものであることは明らかであるから、これが取消を求める原告の本訴請求は理由がある。

(結論)

以上のとおり、原告の本訴請求はいずれも正当であるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 西内英二)

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